新作映画感想文『ゲヘナ』〜日本人監督・片桐裕司氏デビュー作!思い出せば出すほど嫌な気分になる呪い〜

1年くらい前にSNS上で話題になっていたハリウッドでキャラクター造形を手がける日本人・片桐裕司氏の初監督作品『ゲヘナ』の話題を目にした時、アップされていた細くて不気味なジジイの写真を観て、うぉおお観てぇ!!!と。そして、やっと日本公開!ありがとうございます!

上映中、前に座っていた感情移入しすぎおじさんが本編中に「おーう」「あーう」と唸ってくれてたおかげで怖すぎずに済みました。そちらもありがとうございます!いや…ありがとうなのか?むしろ最近の上映マナーを考えると怒るべき対象なのかもしれませんが、そんなことは遠くへほっぽりましょう!

ゲヘナ!

サイパンにリゾート施設作る気満々の奴らが下見をしに島を散策していると、洞窟を発見!

入り口で長老が祈ってて「祟りじゃ〜」とか言ってる金田一耕助バリのフラグからして絶対入っちゃいけないんだけど、会社で出世を狙っている土地開発会社の女社員ポリーナはなんとしてでもこのプロジェクトを進めたいから藤岡弘並みの勇気で洞窟へ突進!すると、そこには無数の死体とやせ細ったジジイが…!

ここからの展開は奇想天外なので内緒!

 

前半はサイパンの美しすぎる景色を引きまくりの俯瞰ショットなどを駆使しながら表現し、洞窟以降のシーンは徹底的に暗くて狭い世界を映すことで観客もいや〜な閉塞感を体感する仕掛けに。

いっこくも早くこんなところから出たい!と思わせつつもあえて洞窟内の図面を難解にし、登場人物達が今どの辺にいるのかを全く感じさせない迷宮演出も秀逸です。

先人たちが犯したこと。その上で生きている自分達の国民としての【侵略による罪悪感】迷い込んだ人物たちが抱える【過去の罪悪感】が重なり合っていき観客の持つ潜在的な恐怖を引き出しながらも、この呪いの行く末には単なる「死」が苦しみなのではないというキリスト教圏では考えづらい死生観がよく出ていて、日本人監督ならではのアイデンティティーが炸裂していると感じます。

鑑賞後、いろんな伏線を思い起こすと…嫌だなぁ…絶対に嫌だ。と尾を引くつくりに…。

映画終盤では、あまりの酷な呪いに感情移入しすぎおじさんも唸るのやめてました。たぶん今頃、あのおじさんは帰りの電車でゲヘナを思い出しながら、一人で「おーう」「あーう」って言ってると思う。それが一番怖いね。

新作映画『来る』感想文 ~原作にあったイヤ〜な部分を拡張させた【お祓いエンタテイメント】誕生!~

Jホラーと言われているジャンルにおいての貞子や伽倻子のホラー表現は「ありふれた日常に突如、非現実的存在が現れる!」ことが怖い!とされています。(もちろんこれだけじゃありませんが)

『リング』や『呪怨』さらにはJホラーをハリウッドまでのし上げたプロデューサー・一瀬隆重は自身の著書の中で『ウルトラQ』から上記で述べたような表現に影響を受けたと語ってました。

すっかり、Jホラーという言葉自体を聞かなくなった時に中島哲也監督が『来る』というホラーを撮るんだと!

ぼくはこの情報を観たときに「えっ!!??」と驚きました。

中島哲也監督は平凡な日常風景をエキセントリックに撮る人ですよね。物語は平凡でも撮り方を工夫したり、ライティングがファンタジックだったり、カットも短く切って工夫して観客を飽きさせない画作りをするというか。

これってつまり、最初に記したJホラーの表現方法とは真逆ですよね!

中島監督は日常を非現実的に描くから、非現実的な幽霊が出てきても際立たない。怖くない。だから、偉そうな言い方をしてしまうと、向いてないんじゃない?と。

それが気になって、原作を読ませていただくと、これは納得!

人間って表面上どうあれ、いや〜な部分たくさんある生き物だよね。という中島監督の作家性と同じようなテーマが原作「ぼぎわんが、来る」に内包されておりました。つまり、監督はホラーとしてではなく人間ドラマの方をやりたかったんだ!と、本作のパンフレットを確認すると、まさにそのようなことを監督がおっしゃっていました。

じゃあ、実際のところ映画版はどうだったのか?というと……これはホラーというより【お祓いエンタテイメント】でした!

誤解を恐れずにハッキリ言うと、従来のJホラー的怖さはありません。ここの部分に関しては、原作の時点でそうだったんですが主人公たちを襲う「それ」の攻撃は貞子や伽倻子のように呪い殺すという目に見えないものではなく、噛んだり、裂いたりと物理的な攻撃なんです。ちょっとしたモンスター映画とも言えるかもしれません。

そんな相手に対して人間が出来る技が【お祓い】です。

これは神主様を呼んで行う盛大なものに限らず、日常でも我々が使用する小規模なものも含んだ【お祓い】というか、ゲン担ぎというか、目には見え無いけれど無意識のうちに信じている言い伝えや習慣、それら様々なものを含んだ大きい意味でのお祓いです。

お守り、盛り塩といった我々一般人が使えるようなものもあれば、霊媒師姉妹による呪文、指輪、おまじない、儀式…と玄人による対抗手段もたくさん登場します。

これらを象徴するのは、クライマックスの原作にはなかったマンションを巻き込んだ大規模な儀式とお祓いです。ここまで規模デカくする必要ある?と笑っちゃうレベルなんですが、映画の根幹にあるテーマでもあるので仕方なし!

対処不能、理解不能、我々はひたすら怯えるだけだった貞子や伽倻子とは違って、本作の相手は戦うことが可能!

気持ちイイぜ!

ゆえに本作は【お祓い】というまくらのついた娯楽作品と言えます!

ゆえに、そこまで怖くはない!とは言いきりつつも……監督は原作にあったイヤ〜な部分を大拡張し、物語の「救い」「感動」を激減させ強烈な中島哲也味に仕上げています。

なので、幽霊は怖くなくても人間は恐ろしい…っていう、どっちにしろ怖い映画にはなっている!という結局なんなのかわからん締めくくり方をさせていただきます。