映画コラム

『22年目の告白 -私が殺人犯です-』

 

※ネタバレしないように書いてますが、勘の良い人はわかってしまうかもしれません。本作を0で楽しみたい方はそっと画面を閉じてください……

 

1980年代後半から韓国で起きた実際の未解決事件を元にした2012年の韓国映画『殺人の告白』そのパッケージからは連想しにくい外連味の溢れた不思議なバランスを持ったアクション超大作だった。

frontline_invicard_ura7.10 cs3

d0310570_10465931

時効を迎えた連続殺人事件の犯人と名乗る男がある日、突然姿を現し、書籍を出版。その内容は自ら犯した殺人事件の裏側を暴露する告白本だった。その綺麗なルックスと炎上商法、マスコミの煽りにより彼の登場は社会現象となっていくが、ある時「真犯人」を名乗るJが現れ、自体は一変していくというのがこの映画の内容。一見、心理戦のような内容かと思いきや、いい裏切りを見せてくれる。

冒頭のアクションやカメラ割りの荒さはマット・デイモンの『ボーンアルティメイタム』の屋根から屋根へ飛び移る逃走劇やアクションスタイルを連想させる。雨の降る中で犯人が主人公刑事を連続殺人の1ピースとして、故意に生かしておくのはフィンチャーの『セブン』 遺族が部隊を結成し、ボーガンや毒蛇、毒入り万年筆などの独特ガジェットやGPSを使った追撃は『ミッション・インポッシブル』シリーズのよう。ボーガンで犯人を狙う場面は先述したボーンシリーズに同じようなシーンがあった。中盤のカーチェイスはジャッキー・チェン的な香港映画の活劇感溢れ、ラストのトラック横転は『ダイハード3』のトンネル洪水シーンと完全に重なり合う。

o1172049413958289053 salinbum_image0_1  images

このように韓国版はハリウッドの娯楽超大作を彷彿とさせる「大味」テイストだったが、そこに韓国お得意の「復讐に囚われた人々」という人間描写とその設定の新鮮さ、大胆さ、練りに練られた展開が加わってなんとも奇妙なバランスになっている。

若干の強引さとラストの落とし前は主人公の立場上、そして倫理の面でも少し驚くが、【実際に起きた】未解決事件に対するせめて「映画の中では…」という韓国国民(広い意味での)の願望の具現化と捉えれば十分理解できる作りだ。

「実際に起きた事件」「時効」というテーマを基盤においた本作は本来なら重いトーンになるが、先述した誰もが楽しめる大味韓国流のオリジナリティによる不思議なバランスの娯楽作品である。(ポン・ジュノ監督の『殺人の追憶』も本事件を元にした戯曲が原作で、こっちはとんでもなく重くて救いようがないので、同じ実話ベースの二極化された2作品になっている)

o1174049913958380968

 

前置きが長くなってしまったが、この作品をリメイクしたのが入江悠監督、脚本『22年目の告白 -私が殺人犯です-』である。

2006年初の長編映画『ジャポニカ・ウイルス』への批判がトラウマになった若き入江悠は「次がダメならもう映画はやめよう」と背水の陣で挑んだ伝説の自主映画『SR サイタマノラッパー』で人気に火がつき、『日々ロック』『ジョーカー・ゲーム』『太陽』と数々の商業映画を監督してきた。

今回の新作は自主映画時代で辛酸を舐め、現場で叩き上げられてきた入江悠が現状の日本映画を変えたいという野心を抱えながら挑んだ初のサスペンスもの。

640-1

一言で言うなら、ただの焼き回しになっていない見事なリメイク!あっぱれ!

先述した韓国版は大味な分、現実味が薄かったのに対して「もし、今の日本で時効を迎えた殺人犯が告白本を出版したらどうなるか?」というシミレーションがきちんとなされている。その証拠に2年半の間に37回もの脚本書き直しを行っている!また、犯人の心理を掘り下げていなかった韓国版に対し、監督は犯罪心理について書籍などを通じて研究し、犯行の動機を作り上げきちんと描ききった!さらに、事件を解決する重要なヒントを日本風のアレンジをし、阪神淡路大震災といった実際に起きた事実と物語をしっかり絡めている。

また、愛を叫んだり、泣いたりする邦画にありがちな不自然な感情表現は削り、あえてドライなタッチにしているところもお見事。余計な要素がなく『藁の盾』的危なっかしさもあり、展開も読めないからしっかりサスペンスに集中することができる。

640-2

ラストの決着が違うのも注目。実際に起きた悲しい現実を映画内で咀嚼し怒りをぶつけたのが韓国版で「ある人物がある種のボーダーを超えてしまう」展開その人物に対しての救い。が結末だったが、日本版ではその「ある人物」はそこまでいかないが、「世代を超えて云々」というある人物のセリフが伏線となり、やるせない終わりになっている(ネタバレ避けすぎて意味わからない文章でごめんなさい)

犯人を追い詰める過程はスリリングで楽しめるが、彼らのやったことが結果的に正解だったのかどうかは提示されず、救いもない。つまり、グレーな着地でこの映画は幕を閉じる。この感じも…ステキじゃないか!!

640-4

韓国版の良いところを残しつつ、アレンジをする理想的なリメイク!両作見て、甲乙つけれない。良さが違う。2本観て楽しめる!

 

また、入江悠はSR映画シリーズ、ドラマなどでは如実だが、カメラの長回しを多用する作家だ。夢を持ち、捨て、再起するSRシリーズの彼らの【終わりを知らない。もしくは終わらせ方がわからない】生き方をカットを切らない長回しによって表現しつつ、日本語ラップというまだ理解の浅い文化のある種の気まずさ。そして、また監督自身が埼玉出身という事もありローカルな土地の閉鎖感、コンプレックを巧みに描いてきた。だが、商業映画ではその作家性は出ていない。いや、あえて出してないと筆者は憶測する。前作(『太陽』は元々の物語が作家性に近かった事もあり、先述した演出法を多用してることがわかる)

監督自身の思い入れが強いSRシリーズを経て、商業映画作品をここまで撮ってわかることは、実は入江悠監督はその作品によって開ける引き出しを区別することの出来るマルチな映像作家だということ。

おそらくそれは、監督自身があらゆる映画と書籍を自分の中に蓄積している普段の訓練と一度折れかけカムバックした野心家としての情熱による力だと筆者は思う。監督の商業映画の作品群は若干、煮え切らない部分があったが、前作『太陽』と本作でようやく地に足がついた!いよいよ入江悠の時代が来た!万歳!

少々、脱線してしまったので、本作のまとめに入るが…

書きそびれたが、ノイズを中心に構成された音楽の重低音がこの映画を緊迫感で包んでいることもあり、最近にない邦画感を醸し出しているし、監督自身にとっても日本映画に対しても挑戦的な作品になったことは言うまでもない。新鋭・入江悠監督が日本映画に叩きつけた意欲作!ぜひ劇場で。

コメント

    • (ネタバレ注意)
    • 2017年 6月 26日

    全体的に緊張感がテンポよく続き、起承転結が綺麗に決まってどんでん返しもあって、面白かったです。
    ただ、残酷なシーンが(殺害シーンが)長くて観ていてきつかったです。

    ラストシーンでタクミに共感できなかったのは私だけでしょうか?22年も恨み続けて、顔まで変えて、あそこまでして、(地下室で彼女の映像まで流れてて…)自分なら真犯人を殺してしまっていると思います。あの状態から、法で裁ける云々言って、復讐の手を止める方が不自然でサムいと感じました。そのあたりの感想を聞きたいです。

      • saitou
      • 2017年 7月 04日

      わざわざコメントありがとうございます。レスポンスが遅くなってしまい申し訳ありません。

      感情移入できるかどうかは個人差が出てきてしまう部分ではあるので、正解はないと思います。
      が、これ記事でも触れてますが本作の韓国で作られたオリジナル版で主人公はラスト法の一線を超えます。観たとき、正直驚いきます。え?これでいいの?って。ただ、この事件は実際に起きた未解決事件を元にしていて、韓国全国民(警察も含めて)が犯人を恨んでいることは間違いありません。もちろん、現実で捕まったら法で裁くべきですが、映画なので、映画でしかなし得ない「せめてもの願望、復習」を果たすラストになっているんですね。
      ただ、日本での今回のリメイクは90年代の社会風景をリアルに取り入れながらも起きている事件はフィクションだし、それは我々観客もそう感じます。つまり、同じ題材でも国柄によって映画内で起きている事件と観客の距離感が違ってくるわけです。
      日本版では、ヤクザの親分が「恨みっていうのは世代を超えて引き継がれていく」という台詞を中盤で発しており、それが伏線となって、いったん主人公たちは踏みとどまったけど…あの結末になっていますよね。

      また、1つ確実に言えるのは、今回のリメイクでは犯人の犯罪心理をよく掘り下げています。なぜ犯行に及ぶか?といったことが具体的に描かれていますよね。あの心理からすると、あそこで殺されることは、犯人にとって勝ちなんです。あの状況下である種の快楽を感じている。さらに、彼はあの場で画面に映る恋人を殺している犯人と全く同じ手口で今自分が相手を殺めようとしているのが、鏡構図になって重なる演出になっている。だから、踏みとどまるわけですね。自分と犯人は同じになっていると。鏡を見ているようだと。そういう演出になっています。

      長々とすみません。答えれているでしょうか。

  1. この記事へのトラックバックはありません。