新作映画『美しい星』感想文 〜発情&覚醒!私は宇宙人だぁ!理解されない個人の世界を描いた傑作〜

※すみません。止むを得ず若干、結末に触れています。映画を予備知識なしで楽しみたい方はそっと画面を閉じてください…。

 

数々の傑作を生み出し『桐島、部活やめるってよ』で日本アカデミー最優秀作品賞を勝ち取って、旋風を巻き起こしたあと、前からやりたかった三島由紀夫のSF小説を映画化する。っていう吉田大八監督のこの流れ。

結果出して、描きたいことを思う存分にやってる感じ映画監督としてカッコイイ〜。

つーことで、話題作『美しい星』を観て参りました。

 

完全に予習なし。三島由紀夫さんの原作も未読(すみません)で挑みましたが、思ってたよりも笑ってしまう作品。

まずは、冒頭。一家の大黒柱であり「全く当たらない」と言われている天気予報士の父の誕生日を高級レストランで祝うシーンからこの物語は始まります。しかし、フリーターの長男が時間になっても来ない。「なんでフリーターなのに、遅れるんだよ」とイラつく父。と、そこに愛人からの電話が入り立席する父。

さっそく雰囲気悪い。居心地最悪。

そこに遅れて兄が到着するが、バイトのメッセンジャーの制服のまま。だいぶスポーティーで場違いな格好です。

せっかく来たのに家族は3人しか揃ってないまま、突然お店の電気が暗くなります。

そこへ誕生日祝いの大きなケーキをもってウェイターさんが、オシャレなバースデイソングを歌いながら入場!周りの多くのお客さんも一家を注目していますが、祝われるべき本人がいないというとんでもない気まずい状況……。

 

ここでタイトルどん!『美しい星』

 

こりゃ笑っちゃいますよね。

ここキーポイントなんですが、ラストのとある展開まで家族4人が映ったショットは一切ない。この冒頭でバラバラな家族であることがここで示唆されます。

 

そんなある日、ポンコツ天気予報士の父が自分は火星人であることを悟るわけです。愛人をホテルでガンガン抱きまくり、彼女を車で送る帰り道に謎の光に包まれ、気付けば翌朝。

田んぼに車ごと突っ込んでいる。愛人は何も覚えてない。筆者的には愛人とのエッチが気持ち良すぎただけだろ!と思っていましたが、どうやらそうじゃないらしい。職場にいるUFOマニア後輩からの入れ知恵もあり、そこから父は宇宙の神秘へとのめり込んでいく。しまいには、自分が火星人であることを悟り、天気予報の生放送中に暴走して温暖化がどうのうこうのと地球人にメッセージを発する始末。

謎のV字のポーズを取る場面や、見守るスタッフが最初は止めもしないで「あ。またやった」っていうくだりはシュールで笑ってしまいます。

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そして、兄貴はプラネタリウムで美人な姉ちゃんとデート中。上映が始まると、キスしまくり相手の股間に手を突っ込んでモミモミ。そこで相手の女性が立ち上がり、「顔だけのフリーターが、ホテル代ケチってこんなところで済ませようとしてんじゃねーよ!」とブチ切れます。

おお…。天下の亀梨くんにそんな発言を…!!

兄はとんでもなく気まずいまま止むを得ずプラネタリウムの金星を見つめていると…あれ、おかしい。金星が迫ってきます。ぐぉぉぉおおおっと大きくなる。こわいこわいこわい。

そこで彼の中にあったものが芽生えるわけです。

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そして、娘。美しい容姿ゆえに大学のミスコンにエントリーするようスカウトされるんですが、そんなものは知らんぷり。

彼女にも恋い焦がれる相手が。それは名もわからない素性もしれない路上ミュージシャン。しかし、そのミュージシャンは今夜を限りに金沢へと帰郷してしまう。思わず彼のCD『金星』を買い(半強制的でしたが)さっそく自宅で聴くと、何やら気持ちがぐわ〜っと盛り上がり、翌日には彼のいる金沢へ飛んでいきます。そこで、彼は彼女に「僕も君も金星人なんだ」と…。

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余談ですが、このミュージシャンは後にとある素性が明るみになるんですが…どっかで見たことある顔だと思ったら…

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三浦友和が最高のクズを演じた『葛城事件』で無差別通り魔を犯す若葉竜也さんでした。

 

で、面白いのは3人とも「異性への発情の果てで覚醒する」という共通点。

異性に対してムラムラ〜っときたと思ったら「あ。あたし宇宙人」と悟り始める。原作未読なんで、詳細はわかりませんが、この共通のきっかけ面白い。

 

そして、母は…?と思ったら、彼女は友人の勧めにより「美しい水」を売り始めます。はい、マルチ商法にハマり始めるのです!イェーイ!

自宅に100ケースもの美しい水を仕入れ、大量に売りさばき、組織から表彰されるほど上り詰める。

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そして、このあと彼ら4人がそれぞれ信じていたモノはあっけない形で崩壊していくんです。

全体を通して「信じているモノの脆さ」をシュールに描いてる。

だけど、人間は何かを信じることで人生に輝きと意味を見いだすしかない。

SF小説とは言いますが、宇宙船がやってきて戦ったりとかっていう皆さんがイメージするハリウッドのSFモノとはちょっと違う。「宇宙」という超俯瞰的な視点から人間を冷静に見ることで、私たちに「問い」を投げかけてきてくれる哲学的な内容になっています。

例えば、メン・イン・ブラックみたいな佐々木蔵之介さんは宇宙人で「地球の環境が美しのではない。地球の環境を美しいと人間が勝手に思っているだけだ」というような台詞があるんですが、ちょっとハッとしますよね。映画を観ていると、蔵之介さんの説得に言い負かされ引き込まれそうになるんです。その問題的に関しては、結論出ないですがクライマックスのリリー・フランキーさんが演じる父が車の中で放つある台詞によって、「あ。人間は生きてていいのかも」とほんの少し思える作りになっています。

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お父さんの最初の宇宙船との遭遇やラストのある展開はスピルバーグの『未知との遭遇』を思い浮かべます。宇宙人の存在を主張するが、周りからは理解されない。しかし、その先にあるモノ…。という映画の流れも酷似しています。これ日本で描いた非常に現実に寄せた『未知との遭遇』と言っていいと思います。

他人からは理解されない何かを信じた先に一体何が待ち受けているのか、という。

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そういう意味で言うと、吉田大八監督らしい作品だなと思います。吉田監督は常に、マイノリティにスポットを当ててきました。その人にしかわからない独自の世界をずーっと映し出す。

菅野美穂さん主演の『パーマネント野ばら』は夫に固執する主人公の姿を徹底的に狂ったように描いているし、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』では妹を演じた佐津川愛美ちゃんの世界がラストで爆発されますよね。代表作『桐島、部活やめるってよ』も映画部もそうだけど、東出昌大くん以外の生徒独自の世界を強烈に描くことで、彼の空っぽな世界を強調してます。

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まとめるとですね、【他人からは理解されない個人独自の世界とその覚醒】にスポットを当てるのが、吉田大八監督の作家性と呼べるのはないでしょうか。だから、我々は作品ごとに没入してしまう。自分に当てはまる部分を観客が自然と見つけてしまうから。

本作では「私は宇宙人なんだよ」という本当に誰からも理解されない次元で悟った人物たちが中心で描かれます。

しかし、そんな4人がラストのとある展開で1つの画面におさまる。つまり、バラバラだった家族4人。社会的にも浮いてしまった4人それぞれが集合することで一致団結する様に不思議と目頭が熱くなってしまいます。

 

クスっと笑えて、気付けばどんどん引き込まれ「本当にこの星は美しいのか?生きていくべきなのか?」と考えさせられる。その答えは描かれませんが、ラストでふっと救われる。近年あまりない不思議な映画です。ぜひ劇場で。

 

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