映画コラム

主人公に弱点があると物語は盛り上がる。

ウルトラマンは大きくなって怪獣と戦えても3分しか戦えない。21世紀のネコ型ロボット ドラえもんは四次元ポケットの道具で万能に見えてもネズミが大嫌い。冒険家インディ・ジョーンズは知識も肉体も強靭だが女に弱くヘビを見ただけで跳ね上がる。

『手紙は憶えている』の主人公は弱点だらけ。老人ホームに住むジジィで、手は震え、足はおぼつかない、おまけに認知症を患っており、いったん寝ると記憶が失われる。本作は妻に先立たれてしまった主人公の老人がかつてアウシュビッツ強制収容所でナチスによって奪われた家族の復讐をするために1人のナチ残党を追うロードムービーだ。標的は1人。容疑者は4人。1人1人に直接会って仇かどうかを確かめていく…。

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一見、ジジィの地味なロードムービーになり兼ねないがそんなこと一切ない。上記のような弱点が主人公のカセとなり物語に緊迫感を持たてくれてヒヤヒヤもの。中盤のナチス信者とのやり取りはすさまじい。

主人公は寝て起きると記憶がなくなり、死んだ妻の名前を毎回呼びながら混乱する。妻はどこにいるのか。なぜ自分は今ここにいるのか…。ポケットに入っている老人ホームの友人が書いてくれた手紙を読み、妻は死んだこと。そして、いま復讐の旅をしていることが克明に書かれていることで記憶が呼び覚まされ再び復讐に燃え始める。つまり、復讐の理由は毎日リセットされる。毎度そこを描いしまえばくどすぎてたまらないが、程よくはしょられている。目的の大小ではなく、主人公自身のポテンシャルを極限まで下げることでスリリングな仕上がりになっている。日常のなんでもないハプニングがこちらをハラハラさせる秀逸な作りだ。この作品の脚本家は本作がデビュー作だと言うから驚き。

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旅の途中、検問で列が並んでいるところや収容所のシャワー室を彷彿とさせる演出など、アウシュビッツと重なり合う箇所があったりするが、戦時中やアウシュビッツの回想や史実の解説などは徹底的に削り、ミステリーとして成り立たせている本作。凄惨な過去を切り取るのでなく、その悲惨な事実の被害にあった人たちの「その後の人生」の苦しみと執念、選択を描いている。死んでしまうギリギリまで戦争を憎み復讐に執着する老人2人を見ていると心がキリキリしだす。戦争は終わった。収容所は無くなった。ヒトラーが死んだといった結果関係なく被害を受けた本人たちにとっては一生つきまとう悲惨な体験。その苦しみが心に刺さる。

苦しいゆえに映画が進むにつれて主人公とその友人の執念に疑問さえ感じる。この復讐に意味はあるのか。こんなに孤独と戦いながらやりとげる意味はあるのか。もう全てを忘れて家に帰り余生を暮らす事のほうが幸せなのではないか……。そんなことを考えながら結末を目の当たりにして、この復讐の本当の目的を目にした時、震えた!

復讐映画とはいえ画面のトーンは明るく、お花に囲まれるクライマックスもお見事。彼らの復讐の虚しさが余計に際立っている本作。観終わったら必ずもう一度観たくなります。これ、絶対。振り返って考えると全部が繋がっているから。そして、原題の意味がより強く心を打ちます。そういうことか…と。あれ、これネタバレ?

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ぜひ劇場でご覧ください!

 

低いところから失礼しました。

 

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