CMやチラシで内容を判断して映画を観ると、良い意味でも悪い意味でも、とんでもない裏切りに合うことが多いよね!
低いところから失礼します。ジャガモンドの斉藤正伸です。
『10 クローバーフィールド・レーン』
あらすじと解説
「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の監督で、ハリウッドきってのヒットメーカーとして知られるJ・J・エイブラムスがプロデュースした謎のSFサスペンス。恋人と別れた女性ミシェルは車を運転中に事故に遭い、気を失う。気が付くと見知らぬシェルターの中で目を覚まし、そこには「君を救うためにここへ連れてきた」と話す見知らぬ男がおいた。男はシェルターの外の世界はすでに滅びたと主張し、ミシェルと男の奇妙な共同生活が始まるのだが……。ミシェル役は「ダイ・ハード」シリーズでジョン・マクレーンの娘ルーシー役を演じたメアリー・エリザベス・ウィンステッド。監督はこれが初長編作となるダン・トラクテンバーグ。脚本に「セッション」のデイミアン・チャゼル、製作総指揮に「クローバーフィールド HAKAISHA」のマット・リーブスが参加。
はじめに 〜日本の宣伝に騙されるな!〜
「洋画を宣伝する日本のポスターとかキャッチコピーってセンス無い」って最近すごい思うんです。
お客さんを入れるために、映画の内容をわかりやすくしようと「変換」して宣伝してるんですよね。海外に比べて日本は映画のライトユーザーが多いから、「わかりやすく」伝えるためには仕方ないことなんだけど。もう少しなんとかなんないかって思う。ただダサいくらいならまだしも、宣伝によって、映画を観る前のイメージに変な影響を与えて、観た後に「思ってたのと違ったわ…」って思われちゃうのって損。そういう感想って、ほとんどが事前にチェックした宣伝と違うから生まれるクレームなんだと思うんです。本作『10 クローバーフィールド・レーン』もその1件。
左が日本版のポスター。右がアメリカのポスター。
アメリカ版ポスターの方が、作品の謎めいた雰囲気が伝わるし、タイトルロゴの下に伸びてる線も劇中の舞台となる地下のシェルターを彷彿とさせてくれて、本作のポスターらしく仕上がっている。けど、日本版のポスターは……うん。実際、観ればわかるけど、こんな追いかけっこするような映画じゃない!でも、わかりやすいのは日本版なんだよなぁ。もし左の印象でSF超大作を観れると思って、本作を鑑賞すると悪い意味で裏切られる。しかも、本作は「何の映画かわからない」という状態で観ることが一番良いので、観るつもりの方はここで読了ストップ!(けど、読んでくれてありがとね♡)速攻、映画館に駆け込んで頂きたい!
「ソリッド シチュエーション スリラー」というジャンルの応用
上記で記した「何の映画かわからない」という宙ぶらりん感覚は本作のコンセプトにマッチしている。映画の冒頭、主人公ミシェル(メアリー・エリザベス・ウィンステッド)は結婚が嫌になって車で逃避行!その途中に事故に遭い、気づけば見知らぬ地下室に…。手錠で足を固定され、身動きが取れない状態になっていた。そこへ見知らぬ男 ハワード(ジョン・グッドマン)が現れる。「君の命を救った。世界は大規模な襲撃を受け、外に出ることは危険だ」と告げられる。主人公は何を信じたらいいかわからない混乱状態に陥る。テレビはない。携帯は圏外で全く電波が入らない。もちろん、インターネットもなく、窓さえない外部と完全に遮断された状態に閉じ込められる。つまり、主人公ミシェル自身も「何が起きてるかわからない」のだ。予告編やポスターさえ観てない人間が本作を鑑賞したら、主人公と全く同じ心境に立ち完全に追体験することができる。
この設定は「ソリッド シチュエーション スリラー」という一時期、流行ったスリラーのジャンルの手法だ。代表作で言えば『キューブ』や『ソウ』シリーズなど。密閉された空間の中にいきなり主人公が放り込まれ、そこへ行き着いた理由を探ったり、脱出を図ったりする映画のジャンルをそう呼ぶ。
この手の手法は観客を惹き込みやすい。画面に映し出される情報や登場人物(特にその空間で主権を握る人物)の台詞に対してとんでもなく集中するからだ。なんとか少ない情報からヒントを得て謎を解こうとする観客の心をつかんでいく。本作は、このシチュエーションに加えて、面白い点があるので、バシバシ書きなぐっていきたい!
ジョン・グッドマンの好演 〜推測できる彼の過去。元はいい奴だったんだよ!〜
見終わった後に「デブいやだ〜」って思うのが本作。上記で記した主人公ミシェルと同じく地下シェルターの同居人であるエメット(ジョン・ギャラガー・Jr.)を牛耳るのは元海軍(自称)のハワードを演じるのジョン・グッドマン!
映画の舞台である地下シェルターに全財産をつぎ込み、その王国で生きる者にルールを強制しているハワード。もし従わなかったり、彼の機嫌を損ねる態度をとれば、とんでもない圧を感じる巨漢パワーでぶちギレる!これ、監督がいやらしいのはハワードのまるまる太ったお腹を必要以上に寄って撮影するカメラアングルを多用したり、デブならではの荒い息遣いまでハッキリ聞かせてるところ。生理的に嫌!!!と観客に感じさせる演出が巧み。また、ぶくぶくに太った体格もストーリーの展開にしっかり活きてる。ミシェルが逃げ出そうとするシーンが幾たびかあるんだけど、ミシェルの気持ち……わかるよ!「このデブなら逃げ切れそう」っていう希望がよぎっちゃうんだよね!
でも、こういう人類の終末論的な本をどっぷり読んで、もしもの時に備えてる人っていると思う。ここからは推測なんですけど、ハワードってもしもの時のシェルター作ってるおっさんでもあるけど…海軍に身を捧げて、きっとベトナム戦争とかイラク戦争(性格な年齢がわからないので判断できず)でとんでもなく心に傷を負ってる。結果的に家族で失敗している。もしくは、家族を作れなかったんですよ!きっと!!!だから、今更ながら仮の家族を無理矢理、構成させようとしてるんだけど「軟禁」という手段を用いらなけらば接することができない。愛情表現ができない。「失う」という事を常に恐れてるんです。不安なんですよ!ハワードは!そんな過去を持っている。(そうでなければ、ただの変態オヤジ!!!)
で!こんなハワードを救ってくれたのが今回の「未知の襲撃」なんです。これによって「拘束」する大義名分が出来た。外出させないことを正当化できる非常事態な訳です。人生で1番気持ち良く「ここから出るな!」と叫ぶことができる。よかったな…!ハワード!名作『未知との遭遇』で「未知」が人を救うということはありましたが、本作のようなある意味での「救い」は今まで観たことがありません。(救いと言っても一時的で一方的ですが)
ちなみに、この生理的にきついデブが主人公を監禁するという設定はトラウマ映画『ミザリー』を思い出させる。
主人公は「ミザリー」という本を書いている小説家なんだけど、その熱烈ファンがこのおばちゃん。作者を監禁して、「私の思う通りの展開にしなさい!」と強制的に小説を書かせるというとんでもない映画なんだけど、『10クローバフィールドレーン』を気に入ったなら『ミザリー』も要チェック!
オシャレな家もオシャレな車も無い。地下シェルター版「テラスハウス」
そんなハワードが家主なわけだから、もう1人若い男が同居人となればそりゃもうお互いの想いが交差しまくる愛憎劇。こりゃもう「テラスハウス」な訳ですよ。
上記の予告編を観ればわかるけど、なんやかんやあるんだけど一山越えてシェルター生活をだいぶ楽しんでるんです。このシェルターはハワードがめんどくさいことを除けば快適で理想的な物件でございます。「隠れ家」っぽいんです!窮屈なんだろうけど、ワクワク気分。このシェアハウスでの共同生活は3人の想いを察知すればするほど楽しめる。2回目鑑賞したい!オチもすべてわかってるから、チュートリアルの徳井さんやYOUさんらのような解説気分で本作を観ることができる。さて、この3人の運命やいかに…!?
「気まずい映画」の傑作
筆者は「気まずい映画」が大好物である。
正確にいうと、観ていて「気まずーーーー。ツラーーーー…!」と冷や汗かくシーンが大好きなのだ。
これは心理サスペンスやミステリーにももちろん多いのだが、「動」の多いアクション映画にこそこの気まずいシーンはよく活きる。黒澤明監督の名作時代劇『用心棒』や『椿三十郎』にも気まずいシーンがあるし、最近で言えばタランティーノの『ジャンゴ 繋がれざる者』のレオ様による人種に対する偏見スピーチは劇場でソワソワしてしまった。
淡々と描かれてるように見えて、登場人物の心がぐちゃぐちゃぐちゃ〜って動いてる様子を描くのは映画にしかできない表現だ。「静」のシーンに見えて心の「動」く。観てるこっちは「ぅっわ。やっべ〜…大丈夫…!?え…どうなるの??」とドキドキしてしまう。こんな最高の緊迫感を生み出してくれる監督と役者さんに拍手喝采である!
本作『10 クローバーフィールド・レーン』にも先述した通りのテラスハウス状態も相まって「気まずいシーン」かある。劇場の大スクリーン、大スピーカーでないとこの上質な気まずさは味わえない!ぜひ主人公たちと一緒に「う〜わ、気まじ〜。つらー」っと共感して頂きたいのだ!
しかも、本作はこういうシーンがめっちゃある!今年度公開の映画ランキング部門別があるのなら「キング・オブ・気まずい映画」だ!
おめでとう!!!
スターウォーズ 新シリーズの監督を勤め、今後の『SW』シリーズも手がける乗りに乗ったJ・J・エイブラムスが仕掛ける『10 クローバーフィールド・レーン』を是非、劇場でご覧あれ!
低いところから失礼しました!